母の乗った車椅子を押す。
曲がった腰
小さくなった背中
舗装のはげた歩道の上で母の体がゆれている。
ああ、母の人生は幸せであったのか?
長男に嫁ぎ、義父母を看取り、父の弟妹に所帯を持たせるために、仕立ての内職をして父を支えた。ヨメが中学生になった時、子どもを大学にやりたいと外に働きに出た。
裁縫の腕を活かして結婚式の貸衣装屋さんの職につく。人当たりの良さと、大所帯を切り盛りしてきたその段取り力と負けん気で、あっという間に店を任されるようになっていった。当時、現金で支給されていた給料の入った給料袋は立っていたー❗️👀
「ねえ、母さん。ずいぶんと頑張ってきたねえ。」
「そうかね。もう忘れたわ。最近は、電話もまともにかけられんようになってしまってねぇ。」母が応える。母、86歳。
今日は、初めて電車に乗って広島駅まで母を連れて行く。母にとっては数ヶ月ぶりの外出である。いつもは介護施設にいる。
歩道で泣き、電車で泣き、駅で泣き、カフェで泣き、泣きっぱなしの母を見て、ヨメも、もらい泣き。
笑ってよー。
「嬉しいねえ。電車に乗れるなんて思ってもみんかった。駅も随分かわったねぇ〜。」
こっちには洋服屋があって、あっちの角には喫茶店があったのに、と、しばしタイムスリップ。行き交う人を見て、「昔、見たことある人じゃわ。」
う〜ん、さすがに、それはないだろうな。
何か欲しいものがないか、と聞くと、「ボールペンとノートが欲しいのだけどいい?」水色のボールペンと花がらのノートを買う。日記をつけるんだろうな。
宮尾登美子さんや山崎豊子さんの本をよく読んでたっけ。「本はいらないの?」「もう読むのがしんどくてねえ。」そうなんだ・・・。
月に一度くらい、外出しよう。
今度は笑顔が見たいよ、ねえ、母さん。
母を施設に送り、家に帰ると、ばあちゃんがニッコリ笑って迎えてくれた。
「ワシも行って手伝えばよかったのお〜。」
いえいえ
お気持ちだけで十分です。
だって、想像できる。
笑える・・・。
でもね、ばあちゃん、ありがとう。