「あと200時間じゃ。」
ベッドからヨメを見上げて、じいちゃんが言う。
200時間?
この2週間で、じいちゃんはすっかり弱ってしまった。ご飯もベッドで食べる。お風呂も、この間、一回入ったきりだ。歩くと酸素を吸っていても苦しくて苦しくてどうにもならない、と言う。
トイレだけは何とか行っているのだが、それ以外は寝たきりである。
「あと200時間は頑張るの。」
お正月まで・・・、ということだ。
コロナの影響で、息子家族も娘も帰ってこられない。テレビ電話で話す予定にしているその正月までは頑張ると言うのである。
ねえ、じいちゃん
そんな計算しながら1日1日を過ごしてたの?😢
知らんかった。
ヨメは、ヨメは・・・ごめん。
愚痴ばっかり言うじいちゃんがワガママに思えて・・・。
老いたら愚痴など言わずに「生き抜く覚悟と死ぬ覚悟」をするべきだと思っていた。いや、今もヨメはそう思っている。
だけど、だけど、
覚悟ができていないのはじいちゃんではなくてヨメだ。ヨメは見送る覚悟ができていないんだ。じいちゃんに「200時間」って言われて動揺してしまった・・・。
「じいちゃんは十分に生きた。大往生じゃん。」って、じいちゃんがいつ亡くなってもそう思えると思っていたけど、肩の荷を一つ下ろせると思っていたけど、泣けてくる。ヨメの生活の中からじいちゃんが消えてしまう・・・。
介護って大変なんだよ。
介護でヨメの自由は奪われてんだよ。
仕事だってなくした。
介護で、介護で、・・・。
何度も何度も心の中で、毒づいたヨメなのに
涙が止まんない・・・。
生・き・て・・・。
ヨメは見送る覚悟、できるか?それは200時間後か、もっと先かもしれないが、そう遠くない未来である。ヨメも生き抜く覚悟、見送る覚悟、死ぬ覚悟を・・・する。
人は等しく、必ず地球から旅立つ日がくる。
あの世に行って「頑張って来ましたー!」って言えるように今を生きよう。
じいちゃんが変なことを言い出すから妙に切なくなったクリスマスなのである。
このあと・・・、
じいちゃんの髪を散髪しました。
いつもヨメがバリカンで刈るのである。
肩で息してるのが、よく分かる。
散髪後、じいちゃんがつぶやいた。
「これで3月まで散髪せんでもええの。」
・・・ん?
じいちゃん、200時間じゃなかったの?